工業高校は「仕方なく行く学校」ではない。これからの日本をつくる学校だ。
先日、滋賀県立瀬田工業高校へ行ってきました。
瀬田工業高校とは、
かれこれ5年ほどのお付き合いになります。
毎年、生徒さんたちの就職活動に向けた講座を
担当させていただいていますが、
今年もやっぱり良かった。
何が良かったのか。
まず、生徒さんたちが自分から挨拶をしてくれる。
こちらから声をかける前に、
「こんにちは!」
と、しっかり声を出して挨拶してくれるんです。
そして講座が始まれば、みんなやる気満々。
声を出すところでは、きちんと声が出る。
動くところでは、キビキビ動く。
一部の元気な生徒だけではありません。
毎年、同じようにできている。
つまり、再現性があるんです。
これは偶然ではありません。
先生方が日頃から指導され、生徒たちも
それを受け継いでいるからこそ生まれる
学校の文化だと思います。
今年も講座を終えたあと、先生から
「今年も良かったです」
と言っていただきました。
毎年行っているからこそ、この言葉は嬉しい。
そして同時に、あらためて思いました。
工業高校は、もっと評価されるべきだ。
私たち世代の工業高校のイメージは、もう古い
私たち50代以上の世代には
工業高校に対していまだに古いイメージを
持っている人がいるのではないでしょうか。
普通科へ行けなかったから工業高校へ行く。
勉強が苦手だから工業高校を選ぶ。
そんなイメージです。
しかし、実際に今の工業高校へ行ってみると
まったく違いますよ。
部活動は活発です。
ロボットコンテストなど
ものづくりの分野でも活躍しています。
スポーツに打ち込む生徒もいれば
機械や電気、ロボットなど、
自分の好きな分野を深く追究している生徒もいる。
そして何より、生徒たちが利発です。
瀬田工業高校だけではありません。
以前、弊社企業向け採用支援の一環として
滋賀県のとある工業高校へ
採用担当の方の学校訪問に同行しました。
そこでも生徒さんたちは自分から挨拶をしてくれました。
就職担当の先生に伺うと
学校として挨拶の指導に力を入れているとのことでした。
私はこういう学校へ行くたびに思います。
工業高校は、もはや「仕方なく選ぶ学校」ではない。
自分の将来を考えた若者が、目指すべき進路の一つです。
目標があるから、生徒は強くなる
なぜ、工業高校の生徒たちはしっかりしているのか。
私は、彼らには比較的明確な目標が
あるからではないかと思っています。
機械を学びたい。
電気を学びたい。
ものづくりの仕事がしたい。
資格を取りたい。
高校を卒業したら技術者として働きたい。
もちろん、全員が最初から明確な夢を
持っているわけではないでしょう。
それでも、工業高校には
学んだことが将来の仕事につながるという
一本の軸があります。
高校で勉強していることが、実習につながる。
実習で身につけたことが、資格につながる。
資格や技術が、就職につながる。
学ぶことと働くことが
一本の線でつながっているんです。
これは大きい。
一方で普通科の高校生はどうでしょうか。
普通科そのものを否定するつもりはありません。
大学進学という目標を持ち、
受験勉強に打ち込む生徒には
普通科は適した環境です。
しかし、大学受験という目標もなく
自分が何をしたいのかも分からないまま
普通科へ進むと、
進路を選ぶ軸が見つかりにくくなります。
「家から近いから」
「自転車で通えるから」
「友達も行くから」
それだけで高校を選んでしまう。
そして高校卒業や大学卒業が近づいてから、急に、
「どんな仕事がしたいですか?」
と聞かれる。
そりゃ、困ります。
仕事を知らない。
自分の得意なことも分からない。
何を基準に選べばいいかも分からない。
その結果、
「人と接する仕事が向いていると思います」
という、非常に曖昧な理由で
販売やサービス、介護などの仕事を
選んでしまうことがある。
もちろん、それらは社会に欠かせない
大切な仕事です。
しかし、「人と接するのが嫌いではない」
という程度の理解だけで仕事を選べば
入社後に苦しくなることがあります。
仕事選びには、もっと具体的な軸が必要です。
「コミュニケーション能力が大事」と言いすぎていないか
今の教育では
「コミュニケーション能力が大切だ」
という言葉を、あまりにも
強調しすぎているように感じます。
もちろん、挨拶や報告、相手に伝える力は大切です。
私自身、面接指導では声の出し方や伝え方を
徹底して教えています。
しかし人間の価値は
話がうまいかどうかだけで
決まるものではありません。
子どもの頃からレゴやブロックが好きだった。
一人で機械を分解するのが好きだった。
黙々と絵を描いたり、
何かを組み立てたりするのが好きだった。
人と話すより、
じっくり考えることが好きだった。
そういう子どもたちが持っている資質を
私たちは十分に伸ばしてきたでしょうか。
社交的で、明るく、話がうまい。
そんな人ばかりを「優秀」と
評価してこなかったでしょうか。
ものづくりには
内省的に考える力が必要です。
細かい違いに気づく力。
構造を理解する力。
何度失敗しても調整を続ける力。
一人で集中し、手を動かし続ける力。
そうした力も、立派な能力です。
むしろ、これからの社会に必要な力です。
子ども一人ひとりが本来持っている
「ものづくりの思考」を見つけ
伸ばす教育が必要だと私は思います。
これから必要なのは、機械と現実世界を動かす技術者だ
これからはAIの時代です。
しかし私はパソコンの画面の中だけで完結する
ソフトウェアだけが重要になるとは思っていません。
今後さらに重要になるのは
AIと現実の機械を結びつける技術です。
ロボット。
機械制御。
センサー。
電気。
電子回路。
生産設備。
AIが判断し、機械が現実の世界で動く。
いわゆるフィジカルAIの分野です。
その中心にいるのは、機械や電気、制御の
仕組みを理解した技術者です。
工業高校で学ぶ知識は
まさにこの分野の土台になります。
ところが日本ではいまだに
普通科から大学へ進学し
ホワイトカラーになることが
「成功モデル」のように語られています。
私はこの価値観を見直す時期に来ていると思います。
机に座り、書類をつくる人ばかりを増やして
誰が機械をつくるのでしょうか。
誰が設備を動かすのでしょうか。
誰が工場の生産性を高めるのでしょうか。
誰がロボットを設計し、保守し、
改善するのでしょうか。
日本は工業国です。
それなのに、技術者を育てる教育を
脇役にしてどうするんですか。
工業教育、農業教育、そして高等専門学校のような
実践的な技術教育に、もっと光を当てるべきです。
高専も、もっと増やしていいと私は思っています。
人が減るなら、人を安く集めるのではなく生産性を上げる
日本の人口はこれからも
大きく減っていきます。
働く人が減る。
店で働く人も減る。
工場で働く人も減る。
介護や物流を担う人も減る。
この問題に対して、単純に
外国人材を増やせばいいという考え方には
私は違和感があります。
日本人がやりたがらない低賃金の仕事を
外国から来た人に担ってもらえばいい。
そんな発想だとすれば
相手に対して失礼です。
外国人材そのものを否定しているのではありません。
国籍にかかわらず、技術や意欲を持った人が
活躍できる社会は必要です。
しかし人手不足の根本的な解決を
安い労働力の確保だけに求めてはいけない。
日本は工業先進国なのですから
まず取り組むべきは生産性の向上です。
機械化する。
自動化する。
ロボットを使う。
AIを使う。
例えばコンビニエンスストアも
すべての業務を今まで通り
人間が行う必要があるのでしょうか。
無人化できる部分は無人化すればいい。
人間にしかできない仕事へ
人を移していけばいい。
人手不足だから人を集める。
それだけではいつまでたっても
問題は解決しません。
少ない人数でも社会が回る仕組みをつくる。
そのために技術が必要です。
そしてその技術を生み出し
使いこなす技術者が必要です。
だからこそ、工業教育が必要なんです。
ベテランの経験も、ここで終わらせてはいけない
八幡工業高校を訪問した際
就職担当の先生と企業訪問についてお話ししました。
私にとっては
これまで普通にやってきたことです。
どのように企業と関係をつくるのか。
どんな質問をするのか。
採用担当者のどこを見るのか。
生徒と企業をどう結びつけるのか。
そんな話をしたところ
同行していた方から
「勉強になります」
と言っていただきました。
私にとっての当たり前が
誰かにとっては新しい学びになる。
こういうことは企業にも学校にも
たくさんあると思います。
ところが日本では定年になった瞬間に
それまで積み重ねてきた知識や
人脈、経験まで終了させてしまうことが多い。
もったいない。
経験豊富なシニアだからこそ
学校と企業の間に入って
関係をつくれることがあります。
若者に現実の仕事を伝えられることがあります。
企業側の事情も、学校側の事情も理解しながら
両者をつなぐことができます。
技術教育を充実させることと
ベテランの経験を次の世代に渡すこと。
この二つを組み合わせれば
日本にはまだまだできることがあるはずです。
工業高校を、もっと誇れる進路にしよう
瀬田工業高校の生徒たちは
今年も元気でした。
挨拶ができる。
声が出る。
動きがキビキビしている。
そして自分たちが学んでいることの先に
仕事がある。
私は毎年、彼らの姿を見るたびに思います。
この生徒たちがこれからの日本をつくるんだ、と。
工業高校は、普通科へ行けなかった生徒が
行く学校ではありません。
技術を身につけ、社会を支え、
自分の力で未来を切り開くための学校です。
大学へ進むことだけが
価値のある進路ではない。
話がうまく、デスクワークができる人だけが
優秀な人材でもない。
機械を動かせる。
ものをつくれる。
不具合を発見できる。
何度も調整し、より良いものにできる。
そういう人がいなければ
社会は一日たりとも動きません。
もうホワイトカラーばかりを
育てる教育から卒業しても
いいのではないでしょうか。
これから必要なのは
現実の世界を動かす人です。
技術者です。
ものづくりを担う人です。
だから私は言いたい。
工業教育の価値を、今こそ見直そう。
工業高校を
若者が胸を張って目指せる学校にしよう。
そして、ものづくりをする人が
もっと尊敬され、
もっと正当に評価される日本にしていこう。
それが、人口が減っていく日本を支える
現実的な道だと私は思っています。