タイパの時代に、あえて“ノートを取れ”と言う理由
ある学生から、こんなメールが届いた。
「先生、動画をずっと公開してほしいです。ノートを取るより、あとから見返したいタイプなので。」
授業は動画で配信し、授業時間内に視聴して、その日のうちにレポートを提出する、という形式をとっている。
このメールを見て、思わず「今の子たちは、情報が“いつでもそこにある”前提で生きてるんだな」と感じた。

クラウドに置いておけば、必要なときに取りに行ける。確かに便利だ。
でも、私はあえて無期限公開はしていない。“期限内に観る”こと自体に意味があるからだ。
それは「タイパ(タイムパフォーマンス)」では測れない“学びのデザイン”の話だ。
インプットとアウトプットの往復が「身につく」を作る
ここで話したいのは、ノートの取り方ではなく、「考え方が身につく構造」だ。
例えば、「コーネル式ノート」という取り方を知っているだろうか。
一時期、「東大生のノート術」として話題になったが、実はこれ、見た目の整理術ではなく脳科学的に合理的な構造をしている。

メモ(インプット)を取るだけで終わらせず、
その中からキーワードを抜き出し(アウトプット)、
最後にページ全体を一文で要約する(再アウトプット)。
このインプットとアウトプットの往復が「理解」を「定着」に変える。
だから効果がある。
「東大生がやっているから」ではなく、「人の脳の仕組みに合っているから」だ。
「いつでも見られる」は「いつまでも見ない」に変わる
動画をいつでも見られる状態にしておくと、どうなるか。
答えは簡単。人は“いつでもできる”と思った瞬間、やらなくなる。
締切があるから、脳は集中する。
一方で、「観るだけ」はインプットで終わる。
就職活動で問われるのは、インプットした知識を言葉にして、再構成して、行動に移せる力。
だから私は、動画を公開しっぱなしにはしない。
“覚えるべきこと”はクラウドではなく、自分の中に置いておくものだから。
クラウドに置く情報、頭に置く情報
クラウドに置いてよい情報は、
- 手順やマニュアル
- 法令、数値、データ
のように、「正確さ」が求められるもの。
頭に置くべき情報は、
- 考え方
- 判断基準
- 言葉の使い方
など、「自分の軸になるもの」だ。

この線引きを誤ると、どれだけ動画を観ても、どれだけ検索しても、行動が変わらない。
“大学は知識を詰め込む場所”ではなく、“考え方を鍛える場所”だということを忘れないでほしい。
最後に、もう一言だけ。
クラウドは便利だ。
でも、君の代わりに考えてくれるわけじゃない。
ノートは君の“第二の脳”だ。
クラウドは倉庫。倉庫は必要だけど、戦うのは脳だ。